<p>温 又柔(おん・ゆうじゅう)<br /> 1980年、台北生まれ。
父の日本赴任に伴い1983年から東京在住。
「好去好来歌」で2009年すばる文学賞佳作受賞。
2011年『来福の家』(集英社)を刊行。
エッセイ「失われた『母国語』を求めて」を白水社のウェブサイトで2011年9月より連載している。
</p> <p>*<br /> 子どもの頃、ヘンテコな自分の名前があんまり好きじゃなかった。
もっと、ふつうの名前だったらよかったのに、と思っていた。
めぐみ、ひろこ、きよみ、ゆうこ‥‥‥友だちの名前が羨ましかった。
ゆうじゅう、なんて名前はケッタイだ。
名前だけじゃない。
苗字も、なんか皆と違う気がしていた。
おん、だなんて。
(「たった一つの、私のものではない名前」より)</p> <p>*<br /> 高学年になった私は、母親がちゃんとした日本語を話さないのに苛立つようになった。
母の舌は、新しい言語を奏でるための音をつくるのには、既に、台湾のことばに親しみすぎていた。
母の話す日本語は、外国人の話す日本語だった。
私は、母のたどたどしい日本語を学校の友だちに聞かれるのが恥ずかしかった。
(「たった一つの、私のものではない名前」より)</p> <p>*<br /> 日本語を母語として習得した私の口腔器官は、日本語に支配されている。
<br /> この偉大なる支配者の懐をくすぐるのが、日本語で文学を志そうとする私の究極の目標であるといったら、可笑しいだろうか。
<br /> 日本語が私の運命なら、私も日本語の運命となりたい。
(「温の手記 2006 MAY」より)</p>画面が切り替わりますので、しばらくお待ち下さい。
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